こわい話をしてあげる/第二夜

 わたしは幽霊とか霊魂とかいったような、その存在が科学的に、というか理論的に実証されないものは基本的に信じてないの。自分の目で見たものならともかくね。
 でも、そうね。今思い出しても奇妙な体験をしたことがあるわ。その話でもいいかしら。

 大学生の頃――二年の、二月頃だったかしら。夜、自宅でレポートを書いていたの。大変な大雪の日だったわ。ある程度のところまで書き上げたから一休みしようと思って、何気なく窓の外を見たのよ。わたしの部屋は二階にあって、部屋の窓から庭を見下ろすことが出来るの。そのときも、窓から庭を見下ろしたのよ。

 雪の所為で視界はだいぶ悪かったの。夜でもあったし、庭の様子は全然分からなかった。それで、一度カーテンを閉めて、一階のキッチンにコーヒーを淹れに行ったの。
 コーヒーを飲んで部屋に戻ってみたら、何だか変な感じがしたのよね。でも、最初はそれが何なのかよく分からなかったの。机に向かおうとして何気なく窓を見たとき、その変な感じの正体に気がついたの。

 カーテンが開いてたのよ。閉めたはずなのに。

 でもまあ、それは閉めたと思ったけど勘違いだったかと思って、その時は深く考えなかったの。で、またカーテンを閉めて、レポートの続きを書き始めたの。
 で、一時間くらいでようやくレポートが仕上がって、さあもう寝ようかと思ってもう一度窓を見たら、カーテンがまた開いてるのよ。今度こそ間違いなく閉めたのに。

 レポートを書いている間、部屋にはわたししかいなかったから、これはさすがに変だと思ったわ。窓の外に何かいるのかと思って――仮にそうだとしても、窓ガラスはしっかり施錠されてるから、外の人がカーテンを開け閉めするなんて不可能なのだけど、恐る恐る窓に近づいて、外を窺ってみたの。
 雪は相変わらず降り続いていて――前に見たときより大降りになってるみたいだったけど、まあとにかく、外なんか全然見えないはずだったの。だけど……。

 雪に埋もれた庭に、子供が立っていたのよ。それが、窓ガラス越しにはっきり見えたの。

 考えて見たら変な話よね。夜、電気のついた明るい部屋の窓ガラスから、暗い屋外の様子って、光の反射の関係で見えないでしょう?なのに、夜――夜中といってもいい時間だったかもね。12時を回っていたから。とにかく外は真っ暗で、雪まで降っているのに、窓の外の様子がはっきりと見えるなんて。
 でもそれ以上に、見覚えのない子供が、こんな大雪の夜に家の庭に立っているなんておかしいと思って、慌てて窓ガラスを開けて呼びかけようとしたの。

 だけど、ガラスがなかなか開かなくて、一瞬目を離したとたんに、その子供はパッと消えてしまったの。掻き消えるみたいに。

 あっという間に消えてしまったから、なんとなく呆然としちゃって、でも多分あれは幻か何かを見たんだと思って、その夜は結局そのまま眠ったの。
 翌朝になって、カーテンを開けて――あのあと閉めて眠ったんだけど、そのあとはもう開くことはなかったわ――また何気なく窓の外を見てみたの。雪はもうすっかり止んでいて、庭は雪に埋もれて真っ白だったのだけどね。

 前の晩、ちょうどあの子供が立っていたあたりに、小さな足跡が残っていたわ。子供が立ってたところだけ。他の足跡はなにもなかった。移動した形跡も。

 でもそのあと、そういうことは二度と起きなかったわ。だから、結局あの子供が何だったのか、今でもわからないの。